クリニック継承で失敗しない！ トラブル事例から学ぶ成功の秘訣

クリニック継承は、医師として、そして経営者としての大きな転換期です。地域医療への貢献という尊い目標を掲げながらも、親族とのトラブル、従業員の離職、患者さんの不安など、乗り越えるべき壁は少なくありません。

統計によると、クリニック継承後、3年以内に約20%が閉院に追い込まれているという厳しい現実があります。その一方で、綿密な準備と戦略的な経営によって、地域医療の要として発展し続けるクリニックも存在します。

この記事では、継承に伴う具体的なトラブル事例と、その解決策を提示。財務デューデリ、従業員とのコミュニケーション、患者さんへの配慮など、円滑な継承を実現するための実践的なノウハウを解説します。

クリニック継承で失敗しないための事前準備4つのポイント

クリニック継承は、人生における大きな転換期であり、大きな決断を伴います。成功のためには、事前の綿密な準備が不可欠です。思わぬ落とし穴にはまらないように、基本的なポイントをしっかり押さえておきましょう。

後悔しないクリニック選びのポイント

クリニック選びは、継承の成否を大きく左右する重要な要素です。立地や設備はもちろんのこと、患者層や経営状況、スタッフとの相性など、多角的な視点から検討する必要があります。

例えば、駅から近い、駐車場が広いなど、患者にとって通いやすい立地にあるクリニックは、集患に有利に働く可能性があります。具体的には、バス停から徒歩5分以内、あるいは無料駐車場が10台以上など、具体的な目安を持つと良いでしょう。

設備の老朽化状況や、医療機器の更新時期も確認が必要です。例えば、レントゲン装置や超音波診断装置など、高額な医療機器は、更新時期が近い場合は、継承後に多額の費用が発生する可能性があります。

また、実際にクリニックを見学する際には、受付や待合室の広さや清潔感、診察室の設備、バリアフリー対応なども確認しましょう。さらに、医療機器だけでなく、電子カルテシステムやレセプトコンピュータなどの導入状況も、業務効率に大きく影響するため、確認が必要です。

経営状況の把握も欠かせません。過去数年間の売上高や利益率、患者数などの推移を分析し、安定した経営が見込めるか、慎重に判断する必要があります。これらの情報は、クリニック側が提示する資料だけでなく、財務デューデリを通じて、より詳細な分析を行うことが重要です。

譲渡契約書の内容で確認すべきこと

譲渡契約書は、クリニック継承における重要な書類です。契約内容をしっかりと理解し、後々のトラブルを避けるために、注意深く確認しましょう。

特に重要なのは、譲渡金額、債務の引継ぎ、医療機器や備品、競業避止義務に関する項目です。譲渡金額が適正かどうか、負債をどこまで引き継ぐのか、設備の状態はどうなっているのか、契約解除の条件は何かなど、疑問点を残さずに確認することが重要です。譲渡金額は、クリニックの収益力や資産価値などを考慮して、適正な価格でなければなりません。また、負債の引継ぎについては、金額や返済条件などを明確にしておく必要があります。

また、患者情報の取り扱いについても、明確に定めておく必要があります。個人情報保護法に基づいた適切な管理方法や引き継ぎ手順を、前院長と十分に協議しましょう。例えば、電子カルテシステムのパスワード管理や、紙カルテの保管場所、廃棄方法などを明確にしておく必要があります。

継承前に必ず行うべき財務デューデリ

財務デューデリとは、クリニックの財務状況を詳細に調査することです。継承後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、専門家の力を借りながら、しっかりと行うようにしましょう。具体的には、会計事務所や税理士法人などに依頼して、専門家の目で財務状況を精査してもらうことが重要です。

具体的には、過去3期分の確定申告書、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などを精査し、売上や利益、費用構造、資産、負債、資金繰りなどの状況を分析します。これらの資料を読み解くことで、クリニックの収益性や財務リスクを把握することができます。例えば、売上が年々減少している場合は、その原因を分析し、改善策を検討する必要があります。

もし、財務デューデリを怠ったり、不十分なまま継承してしまうと、後々、隠れた負債や不良債権が発覚し、経営を圧迫する可能性もあります。例えば、医療機器のリース契約が残っていたり、従業員の退職金未払いなどが発覚することがあります。

経験豊富な専門家選びの重要性

クリニック継承は、専門性の高い分野です。税務、法律、医療経営など、様々な知識が必要となるため、経験豊富な専門家のサポートを受けることが不可欠です。

例えば、税理士は、事業承継税制の活用や、クリニック経営に最適な税務対策などをアドバイスしてくれます。弁護士は、譲渡契約書の作成や、医療法に関する相談に乗ってくれます。また、医療コンサルタントは、経営計画の策定や、診療報酬請求の効率化などを支援してくれます。

専門家を選ぶ際には、クリニック継承の実績が豊富かどうか、親身になって相談に乗ってくれるか、費用体系が明確かどうかなどを考慮しましょう。信頼できるパートナーを見つけることが、成功への近道です。特に、M&A仲介会社の中には、担当者の能力に差がある場合もあるため、複数の専門家に相談し、比較検討することが重要です。

クリニック継承におけるトラブル事例と対策

クリニック継承は、医療の灯を未来へ繋ぐ、尊い決断です。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。継承後に待ち受ける、親族、従業員、患者、そして経営悪化といった、クリニック経営における代表的なトラブル事例と、その対策について、具体的な例を交えながら解説していきます。

親族間で発生するトラブルと対策

「先生、跡継ぎは息子さんにするんですか？」

長年、地域医療に貢献してきたベテラン医師であれば、一度は耳にしたことがある言葉かもしれません。親族へのクリニック継承は、経営の安定化や、一族の財産を守るといったメリットがある一方、感情的なしこりや金銭トラブルに発展するリスクも孕んでいます。

事例1： 自分の息子に継がせたいが、娘夫婦から反対されている

長年、クリニックの事務を手伝ってきた長女夫婦は、クリニックの経営状況や従業員との関係も良好で、地域住民からの信頼も厚いです。一方、医師である息子は、大学病院で勤務しており、クリニック経営には全く興味を示していません。

このような場合、感情的な対立を避けるためにも、第三者である弁護士や税理士などの専門家を交えて、遺産分割協議書を作成しておくことが重要です。遺産分割協議書には、クリニックの評価額、相続割合、経営方針などを明確に記載することで、後々のトラブルを予防することができます。

事例2： 相続税の納付が困難で、クリニックを手放すことになった

相続税は、現金で一括納付が原則です。そのため、相続税の納税資金を準備していなかったために、クリニックを売却せざるを得ないケースも少なくありません。

このような事態を防ぐためには、生前に適切な相続税対策を講じておくことが重要です。具体的には、生命保険への加入や、不動産の有効活用、贈与など、様々な対策方法があります。税理士などの専門家に相談し、最適な対策を検討しましょう。

親族間でのクリニック継承は、感情的な問題も絡み合い、解決が困難になるケースも少なくありません。トラブルを未然に防ぐためにも、早期の対策と専門家への相談が重要です。

従業員とのトラブル事例と対処法

クリニックにとって、従業員は患者とクリニックを繋ぐ大切な架け橋です。しかし、継承を機に、長年勤務してきた従業員との間に、溝が生まれてしまうケースも少なくありません。

事例1： 経営方針の違いから、ベテラン看護師が退職してしまった

前院長は、患者との距離が近く、アットホームな雰囲気を大切にする診療スタイルでした。しかし、新しく就任した院長は、効率性や収益性を重視する経営方針を掲げ、電子カルテの導入や業務フローの見直しなどを断行しました。

このような変化についていけず、モチベーションが低下してしまう従業員もいます。継承後も、これまで通りにクリニックを運営していくためには、従業員とのコミュニケーションが不可欠です。継承前に、従業員に対して、継承後の経営方針や雇用条件などを丁寧に説明し、不安や疑問を解消することが大切です。

事例2： 新しい給与体系に不満を持った、医療事務スタッフが退職した

前院長は、従業員との良好な関係を重視し、経験や能力を考慮して給与を決定していました。しかし、継承後は、人事評価制度を導入し、成果に基づいた給与体系に変更しました。結果、評価基準が不明瞭なまま、給与が減額されたと感じるスタッフも出てしまいました。

このような事態を避けるためには、新しい給与体系や人事評価制度を導入する際には、従業員に対して、変更の理由や内容を丁寧に説明し、理解と納得を得ることが重要です。

従業員とのトラブルは、クリニックの評判を傷つけ、患者離れに繋がる可能性もあります。従業員との信頼関係を築き、働きやすい環境を提供することが、クリニックの長期的な成功に繋がります。

患者とのトラブルを回避するために

「先生が変わってから、クリニックの雰囲気が変わったわね」

患者にとって、クリニックは自身の健康を預ける大切な場所です。長年、前院長との信頼関係で成り立っていたクリニック経営も、院長が交代することで、その関係性が崩れてしまう可能性があります。

事例1： 診療方針の違いから、患者が来院しなくなってしまった

前院長は、漢方薬やサプリメントを積極的に取り入れた治療を行う一方、新院長は、西洋医学に基づいた標準治療を重視する診療方針でした。そのため、前院長の方針を希望する患者から、不信感を抱かれるケースが出てしまいました。

このような事態を避けるためには、継承前に、患者に対して、新院長の紹介や診療方針などを丁寧に説明し、不安を払拭することが大切です。ホームページや院内掲示などを活用し、患者への周知を徹底しましょう。

事例2： 院長の変更を告知せずに、患者から不信感を抱かれた

前院長は、高齢を理由に、後継者を探していました。しかし、なかなか良い人材が見つからず、ある日突然、閉院することになってしまいました。

このようなケースでは、患者は、突然の閉院に驚きと不安を感じ、クリニックへの不信感を募らせてしまいます。患者とのトラブルを避けるためには、後継者探しが難航している場合でも、患者に対して、状況を正直に説明し、理解を求めることが重要です。

患者との信頼関係は、一朝一夕に築けるものではありません。患者に対して、誠実に、そして丁寧に接することで、信頼関係を築き、長期的な関係を構築していくことが重要です。

経営悪化を防ぐための対策

「まさか、赤字になるとは…」

クリニック経営は、医療技術だけでは成り立ちません。継承後に、診療報酬の請求漏れや医療事故、患者数の減少など、様々な要因で、経営が悪化するケースも少なくありません。

事例1： 診療報酬の請求漏れが発覚し、多額の損失が発生した

クリニック継承後、医療事務スタッフのミスにより、診療報酬の請求漏れが発覚しました。請求漏れは、過去数年に渡っており、その額は数百万にものぼりました。

診療報酬の請求は、クリニック経営の生命線です。請求漏れを防ぐためには、電子カルテシステムの導入や、医療事務スタッフの教育など、適切な対策が必要です。

事例2： 医療訴訟のリスクに備え、損害賠償保険に加入した

クリニック継承後、医療事故が発生し、患者から損害賠償請求訴訟を起こされました。訴訟費用や損害賠償金は、クリニックの経営を圧迫する可能性があります。

このような事態に備え、損害賠償保険への加入は必須です。また、医療安全対策を徹底し、医療事故の発生を予防することも重要です。

クリニック経営は、医療制度や社会情勢の変化に大きく影響を受けます。継承後は、最新の情報を収集し、経営戦略に反映させていくことが重要です。

クリニック継承後の経営を成功に導く戦略

クリニック継承は、長年地域医療に貢献してきた前院長の想いを引き継ぎ、患者さんに寄り添う医療を提供していく、という、医師としてのやりがいと同時に、経営者としての責任を負うことになります。継承後、スムーズに経営軌道に乗せるためには、診療体制の整備、効果的な広報活動、財務管理の徹底、そして将来を見据えた設備投資など、多岐にわたる戦略が必要となります。

診療体制の構築と患者満足度向上の方法

患者さんが安心して通い続けられるクリニックを作るためには、前院長時代からの診療体制を継承するだけでなく、時代の変化や患者さんのニーズに合わせて、より良い医療サービスを提供できるよう、常に改善していく姿勢が大切です。

まず、患者さんの視点に立ち、「どんなクリニックだったらまた来たいと思うか」を徹底的に考えましょう。例えば、待ち時間の短縮は、多くの患者さんにとって大きなメリットです。予約システムの導入や、診療時間の分散化など、様々な方法を検討してみましょう。

私が以前勤務していたクリニックでは、待ち時間を減らすために、午前診の受付時間を30分早めて、早めに来院された患者さんから順番に診察を開始する体制にしました。その結果、午後の診療開始時間が遅れることなく、スムーズに診療を行うことができるようになり、患者さんからも好評でした。

さらに、患者さんとのコミュニケーションを大切にし、丁寧な説明を心がけることも重要です。病気や治療法について、患者さんが理解しやすい言葉で説明し、不安や疑問を解消することで、信頼関係を築くことができます。

効果的な広報活動で新規患者獲得

クリニック継承後も安定した経営を続けるためには、新規の患者さんを獲得し続けることが重要です。特に、高齢化が進み、人口減少が続く地域では、積極的にクリニックの情報を発信し、新規患者さんの獲得に力を入れる必要があります。

従来の看板やチラシなどの広告に加え、インターネットを活用した情報発信も効果的です。クリニックのホームページは、患者さんがクリニックを選ぶ際の重要な情報源となります。診療時間や診療科目、医師の紹介など、充実した情報を掲載し、患者さんが求める情報にアクセスしやすいようにしましょう。

また、地域住民向けの健康講座やイベントを開催することも、クリニックの認知度向上に役立ちます。私は、地域の公民館で、高血圧予防をテーマにした健康講座を開催しました。参加者の方から、日頃の血圧管理の不安や疑問を聞くことができ、クリニックにも興味を持っていただくことができました。

財務管理の徹底と収益向上

クリニック経営において、財務管理は非常に重要です。継承後、経営状況を正確に把握し、適切な財務計画を立てることが、安定した経営に繋がります。

まず、毎月の収入と支出を把握し、収支状況を分析しましょう。診療報酬の請求漏れがないか、薬剤や医療材料の在庫管理は適切か、など、細かくチェックしていくことが大切です。

また、経費削減にも積極的に取り組みましょう。例えば、電力会社の見直しや、医療材料の共同購入など、様々な方法で経費削減することができます。

以前、私が経営していたクリニックでは、医療材料の仕入れ先を見直した結果、年間で数十万円のコスト削減に成功しました。

設備投資の判断基準

最新の医療機器の導入は、患者さんに質の高い医療を提供するために必要な投資です。しかし、高額な設備投資を行う際には、慎重な判断が必要です。

設備投資を行う前に、本当にその設備が必要なのか、費用対効果は見込めるのか、などを検討する必要があります。最新の医療機器を導入したものの、患者さんの増加には繋がらず、投資費用を回収できない、というケースも少なくありません。

また、医療機器のリース契約や、中古医療機器の購入など、初期費用を抑える方法もあります。予算や経営状況に合わせて、最適な方法を選びましょう。

私がクリニックを継承した当初、電子カルテシステムの導入を検討していました。しかし、高額な初期費用がネックとなり、導入を躊躇していました。そこで、リース契約を利用することで、初期費用を抑えながら、最新の電子カルテシステムを導入することができました。

クリニック継承で知っておくべき法律と税金

クリニック継承は、医療の知識や経験だけでなく、経営や法律、税金など幅広い知識が必要となります。これは、クリニックを継承した後の経営を左右する重要な要素であり、スムーズな事業承継のためには、事前に関係法令や税制について理解を深めておくことが重要です。いざ継承という段階になってから慌てて税理士を探すのではなく、前もって相談しておくことで、後々のトラブル防止やスムーズな手続きにつながります。

実際、私がクリニックを継承する際に、事前に税理士に相談しておけば良かったと後悔した経験があります。継承直前に慌てて税理士を探し、決算書などのチェックを依頼しましたが、その際に「もっと早く相談してくれれば…」と言われたのです。

経営の素人である私が、貸借対照表や損益計算書を読み解くことは難しく、専門家の意見を聞くことの重要性を痛感しました。税理士は、クリニック経営に精通しており、具体的な事例や数字を交えながら、わかりやすく説明してくれました。

医療法における継承手続き

医療法は、医療機関の開設、運営、休廃業などに関する事項を定めた法律です。クリニック継承においても、医療法に基づいた手続きが必要となります。主な手続きとしては、以下の点が挙げられます。

• 継承許可申請: クリニックを継承する際には、管轄の都道府県知事に対して継承許可申請を行う必要があります。この申請には、診療科目の変更や病床数の変更などが伴う場合には、併せて手続きを行う必要があります。
• 医療従事者の資格確認: 継承者となる医師は、医師免許はもちろんのこと、継承する診療科目に関する必要な資格を保有している必要があります。例えば、内科から外科へ診療科目を変更する場合、外科の専門医資格が必要となります。
• 施設基準の適合確認: 継承するクリニックは、医療法で定められた施設基準を満たしている必要があります。施設基準は、診療科目や病床数によって異なり、診療報酬の請求にも関わる重要な要素となります。例えば、CTやMRIなどの画像診断装置を設置する場合には、その性能や設置場所などが施設基準に適合している必要があります。
• 設備の維持管理: 継承後も、医療機器や設備を適切に維持管理していく必要があります。医療機器は、定期的な保守点検や更新が必要となる場合があり、適切な管理体制を構築することが重要です。例えば、電子カルテシステムを導入している場合、定期的なソフトウェアのアップデートやデータバックアップなどが欠かせません。

税理士を活用した節税対策

クリニック継承には、多額の資金が必要となるケースが多く、税金対策は非常に重要な要素となります。税理士に相談し、適切な節税対策を講じることで、税負担を軽減できる可能性があります。主な節税対策としては、以下のようなものがあります。

• 事業承継税制の活用: 事業承継税制は、事業承継時の税負担を軽減するための特例措置です。要件を満たすことで、相続税や贈与税の納税猶予や軽減を受けることができます。例えば、先代から事業を承継した場合、一定の要件を満たせば、相続税の納税を最長10年間猶予することができます。
• 法人税の節税: 法人税の節税対策としては、各種控除や優遇措置の活用、設備投資による減価償却費の計上などが考えられます。例えば、医療機器を新規に導入した場合、一定の要件を満たせば、即時償却などの優遇措置を受けることができます。
• 所得税の節税: 医師の所得税対策としては、医療費控除や社会保険料控除などの活用、小規模企業共済等掛金控除制度の利用などが考えられます。例えば、小規模企業共済に加入することで、掛金が全額所得控除となり、所得税の負担を軽減することができます。
• 固定資産税の節税: クリニックの土地や建物の固定資産税についても、評価額の見直しや特例措置の活用などにより、節税を検討することができます。例えば、クリニックの土地が市街化区域農地の場合、固定資産税の軽減措置を受けることができます。

事業承継計画の作成と見直し

事業承継計画とは、いつ、誰に、どのように事業を承継していくかを具体的に計画したものです。計画を立てることで、承継時のトラブルを防止し、円滑な事業承継を実現することができます。事業承継計画には、以下のような項目を盛り込む必要があります。

• 承継時期: いつ事業承継を行うのか、具体的な時期を明確にします。例えば、「〇年後に息子に継承する」「〇歳までには後継者を決めたい」など、具体的な目標を設定することで、逆算して準備を進めることができます。
• 承継方法: 事業承継の方法には、譲渡、贈与、相続など、さまざまな方法があります。それぞれの方法のメリット・デメリットを比較検討し、最適な方法を選択します。例えば、贈与であれば、生前に財産を移転することで、相続税対策になるというメリットがあります。
• 後継者の決定: 誰に事業を継承させるのかを決定します。後継者が決まっていない場合は、後継者候補の選定や育成計画も検討する必要があります。後継者候補には、クリニックの経営理念や診療方針を理解し、患者様からの信頼を得られる人材を選ぶことが大切です。
• 資金計画: 事業承継に必要な資金をどのように調達するかを計画します。自己資金だけでなく、金融機関からの融資なども検討する必要があります。資金計画には、設備投資や運転資金など、必要な資金を洗い出し、それぞれの調達方法や返済計画などを具体的に盛り込みます。
• 税金対策: 事業承継には、相続税や贈与税などの税金が発生する可能性があります。税理士と相談し、適切な税金対策を検討しておく必要があります。税金対策は、事業承継の方法や時期、後継者などによって最適な方法が異なります。

事業承継計画は、一度作成したら終わりではなく、状況の変化に応じて定期的に見直すことが重要です。例えば、税制改正や医療制度改革など、外部環境の変化に合わせて、事業承継計画を見直す必要があります。

成功するクリニック継承を実現する秘訣

クリニック継承は、医療の灯を未来へ繋ぐ、尊い決断です。しかし、それは単に既存の診療を引き継ぐだけではありません。患者さんの信頼を引き継ぎ、地域医療に貢献し続けるためには、継承後のビジョンを明確にし、スタッフや患者さんとしっかりと向き合い、地域医療への貢献を意識することが重要です。

継承後のビジョンを明確に

クリニックを継承したら、どんな医療を提供したいですか？どんなクリニックにしたいですか？ 漠然とした理想だけでは、現実は厳しいかもしれません。

継承後のビジョンを明確にすることは、航海の羅針盤を持つようなものです。目指す方向が定まれば、自ずと進むべき道が見えてきます。

例えば、私が以前勤務していたクリニックでは、糖尿病治療に力を入れていました。地域住民の健康寿命を延ばしたいという強い想いから、専門性の高い糖尿病ケアを提供し、食事指導や運動療法にも積極的に取り組んでいました。その結果、患者さんから厚い信頼を得ることができ、多くの患者さんに来院いただくことができました。

このように、明確なビジョンを持つことで、スタッフのモチベーション向上にも繋がり、患者さんにとっても安心感を与えることができます。

スタッフとのコミュニケーション

クリニックのスタッフは、患者さんとの信頼関係を築き、円滑なクリニック運営を支える上で欠かせない存在です。継承後も、スタッフが安心して働き続けられるよう、コミュニケーションを密にとり、信頼関係を築くことが重要です。

継承当初は、スタッフも新しい環境や院長である私に不安を抱いているかもしれません。そこで私は、就任後すぐに、スタッフ全員と個別に面談を行う時間を設けました。その際、「これまで通り」という言葉は使わず、過去の経営方針や診療体制の良い点は継承しつつ、新しい取り組みについても丁寧に説明し、理解と協力を求めました。

例えば、電子カルテシステムの導入など、業務フローが大きく変わる場合は、事前に十分な説明と研修を行い、不安を解消することが重要です。また、定期的なミーティングや意見交換の場を設けることで、風通しの良い職場環境を作るよう心がけました。

患者への丁寧な引継ぎ

患者さんにとって、長年通い慣れたクリニックの院長が変わることは、大きな不安を伴うものです。中には、「先生が変わってしまうなら、他のクリニックに変えようかな…」と考えている患者さんもいるかもしれません。

患者さんの不安を払拭し、安心して来院していただくためには、前院長から新院長への丁寧な引継ぎが不可欠です。

具体的には、院内掲示やホームページ、地域情報誌などを活用し、継承の事実や新院長のプロフィール、診療方針などを事前に周知します。その際、私が特に重要視したのは、患者さん一人ひとりに、前院長から新院長への交代を直接伝えることです。

以前、私が継承したクリニックでは、高齢の患者さんが多く来院されていました。そのため、個別に手紙を作成し、これまでの感謝の気持ちと、新体制での診療方針などを丁寧に説明しました。その結果、患者さんからは「先生が変わっても、安心して通院できます」という温かい言葉をいただくことができ、スムーズな継承に繋がったと感じています。

地域医療への貢献と継続性

クリニックは、地域住民の健康を守るという重要な役割を担っています。継承後も、地域医療への貢献を継続し、地域住民から信頼されるクリニックを目指しましょう。

前院長が築き上げてきた地域との繋がりを大切にしながら、地域住民のニーズを的確に捉え、より良い医療を提供していくことが重要です。

例えば、高齢化が進んでいる地域であれば、訪問診療や在宅医療に力を入れる、といった戦略も考えられます。また、地域の医療機関と連携し、病診連携や在宅医療を推進することで、地域全体の医療レベル向上に貢献することができます。

地域住民向けの健康教室やセミナーを開催することも、クリニックの認知度向上に繋がり、地域貢献にも繋がります。

クリニック継承は、ゴールではなくスタートです。前院長の功績に感謝し、患者さんの想いに寄り添いながら、地域医療に貢献し続けるために、日々努力を重ねていきましょう。

まとめ

クリニック継承を成功させるには、事前の綿密な準備が不可欠です。クリニック選びでは、立地や設備、患者層、経営状況などを多角的に検討し、譲渡契約書の内容確認、財務デューデリの実施も重要です。

トラブルを防ぐには、親族や従業員、患者とのコミュニケーションを密にし、経営悪化を防ぐ対策も必要です。診療体制の整備、効果的な広報活動、財務管理の徹底、将来を見据えた設備投資なども成功には欠かせません。

法律・税金面では、医療法に基づいた手続き、税理士による節税対策、事業承継計画の作成と見直しが重要です。

継承を成功に導くには、継承後のビジョンを明確にし、スタッフや患者との信頼関係を築き、地域医療への貢献を継続することが大切です。