クリニック開業で後悔するのはなぜ？売上を安定化させるコツも解説

医師として、クリニック開業は「理想の医療を実現する夢」へと続く、大きな一歩です。しかし、現実は決して平坦ではありません。資金計画の甘さや需要の見誤り、人材確保の難航など、多くの開業医が予期せぬ困難に直面し、後悔を抱えています。

統計によると、クリニック開業資金の相場は3,000万円～5,000万円と言われています。綿密な資金計画なしに楽観的な見通しで開業すると、資金繰りに苦しむ可能性も。

この記事では、クリニック開業後に後悔しやすい落とし穴とその原因を具体的に解説し、回避策を提示します。地域医療への貢献と安定経営を両立させるための処方箋を知り、あなたのクリニック開業を成功に導きましょう。

クリニック開業で後悔しやすい落とし穴

クリニック開業は、医師としての人生における大きな転換期であり、自らの理想の医療を実現する夢への第一歩です。しかし、その道のりは決して平坦ではなく、多くの開業医が予期せぬ困難に直面し、あの時こうしていればと後悔する姿を目の当たりにしてきました。

私自身も、10年以上前に内科クリニックを開業した際、当初は患者さんがなかなか集まらず、資金繰りに奔走した苦い経験があります。その経験から痛感したのは、医療技術や知識だけでは成功には届かず、経営者としての視点と戦略が不可欠であるということです。

この章では、多くの開業医が経験する「後悔」の落とし穴とその原因を具体的に示し、事前に回避するための対策をわかりやすく解説します。

資金計画の甘さは命取り！開業前に知っておくべき資金調達の現実とリスク

クリニック開業には、医療機器の購入、内装工事、人件費など、多額の資金が必要となります。開業資金の相場は、診療科目や規模にもよりますが、3,000万円～5,000万円と言われています。

「開業すれば、患者さんは自然と来院するだろう」「医師としての経験と技術があれば、経営はうまくいくはずだ」

このような楽観的な見通しで、資金計画を甘く見積もってしまうケースが後を絶ちません。

しかし実際には、開業当初は患者数が安定せず、収入が思うように得られないケースが非常に多く、当初の見込み通りに患者さんが来院せず、資金繰りが悪化し、医療機器のローン返済や人件費の支払いに窮してしまうケースも少なくありません。

例えば、内科クリニックを開業した場合、1日あたりの平均患者数が20人を想定していたとしましょう。しかし、開業当初は10人にも満たない日が続いた場合、収入は当初の見込みの半分以下になってしまいます。

このような事態に陥らないためには、事前に綿密な資金計画を立て、余裕を持った資金調達を行うことが重要です。

具体的には、以下の項目を考慮する必要があります。

• 開業費用: 内装工事費、医療機器購入費、広告宣伝費など
• 運転資金: 人件費、賃料、光熱費、消耗品費など
• 返済計画: 返済期間、金利、毎月の返済額
• 資金調達方法: 自己資金、融資（銀行、政府系金融機関など）

特に、金融機関からの融資を受けるには、実現可能性の高い事業計画書の作成が必須です。金融機関は、クリニックの収益性や返済能力を厳しく審査します。具体的な診療科目、ターゲットとする患者層、予想される患者数、診療報酬、経費などを明確に示し、説得力のある事業計画を提示しなければなりません。

需要を見誤るな！綿密なマーケティングと差別化戦略で患者獲得

「良い医療を提供すれば、患者さんは自然と集まってくる」

これは、医師であれば誰もが抱く理想であり、開業当初は、この信念を強く持っている方がほとんどでしょう。しかし、医療機関が乱立する現代において、この考え方は非常に危険です。

どんなに優れた医療技術や設備を備えていても、患者さんにその情報が届かなければ、クリニックの存在自体を知ってもらえません。そして、他の医療機関との差別化が明確でなければ、患者さんは数ある選択肢の中から、あなたのクリニックを選んで来院してくれることはないのです。

例えば、人口10万人の都市部に内科クリニックを開業する場合を考えてみましょう。既に地域には、5つの内科クリニックが存在しているとします。

もしも、あなたのクリニックが他のクリニックと全く同じような診療内容で、特徴や強みを打ち出せなかった場合、患者さんから見れば、6つ目の選択肢が増えただけに過ぎません。

患者さんの視点に立ち、「なぜ、あなたのクリニックを選ばなければならないのか？」を明確に示す必要があります。

そのために必要なのが、綿密なマーケティングと差別化戦略です。

効果的なマーケティング戦略例

• ターゲットを絞った広報活動: 地域の新聞やフリーペーパーへの広告掲載、地域イベントへの参加など
• ホームページやSNSでの情報発信: 専門とする診療内容や医師の紹介、院内の雰囲気を伝える写真などを掲載
• 口コミ: 患者満足度を高め、クチコミによる集患を期待する

チーム医療の重要性を見落とすな！採用難時代に対応した人材確保と育成術

クリニック経営において、医師の腕前は非常に重要ですが、それだけで成功できるほど甘い世界ではありません。医療事務、看護師、臨床検査技師など、質の高い医療を提供し、円滑なクリニック運営を実現するためには、優秀なスタッフの存在が不可欠です。

しかし、医療業界の人手不足は深刻化しており、優秀な人材の確保は容易ではありません。

「求人広告を出しても応募が来ない」「採用したと思ったら、すぐに辞めてしまった」

このような悩みを抱えるクリニック経営者は後を絶ちません。

実際、厚生労働省の調査によると、医療事務の有効求人倍率は2倍を超えており、売り手市場が続いています。

優秀な人材を獲得するためには、待遇面や労働環境の改善はもちろんのこと、クリニックとしての魅力を積極的にアピールしていく必要があります。

人材確保と定着率向上のための取り組み例

• 魅力的な職場環境づくり: 給与水準の見直し、労働時間の短縮、福利厚生の充実
• スキルアップ支援: 資格取得や研修参加への補助制度
• 働きやすい人間関係: 風通しの良い職場環境づくり、コミュニケーション機会の増加
• 業務の効率化: 電子カルテシステム導入による業務負担軽減 など

採用活動は、クリニックの将来を左右する重要な投資です。短期的な視点ではなく、長期的な視点で、人材確保と育成に取り組むことが、クリニックの成長と安定に繋がります。

クリニック経営を安定化させるための処方箋

開業医として、日々の診療に追われる一方で、クリニック経営を安定させるためには、多岐にわたる要素を考慮する必要があります。どのようにすれば、地域医療に貢献しながら、安定した経営基盤を築けるのでしょうか？ここでは、経営を安定化させるための処方箋として、具体的な方法を3つの視点から解説します。

地域医療への貢献と経営は両立できる！患者の信頼を勝ち取る診療体制の構築

「地域医療への貢献」と「クリニック経営の成功」。この二つは、決して相反するものではありません。むしろ、患者さんの視点にしっかりと立ち、信頼される医療を提供することで、結果として安定経営に繋がる道筋が見えてきます。

例えば、診療時間を見直し、仕事帰りの患者さんが通いやすいように、夜間診療や休日診療を取り入れてみてはいかがでしょうか。実際に、私が経営するクリニックでは、近隣の会社員の方々からの要望に応え、水曜日は夜8時まで診療時間を延長したところ、患者数が1.5倍に増加しました。

また、高齢化が進む地域では、訪問診療を導入することで、通院が困難な患者さんにも寄り添うことができます。私の知人のクリニックでは、訪問診療を始めるにあたって、当初はスタッフの負担増加や採算性を懸念していました。しかし、実際に開始してみると、患者さんからの感謝の言葉が何よりの励みとなり、今ではクリニックの柱の一つに成長しています。

さらに、地域住民向けの健康講座やイベントを開催することも有効です。生活習慣病予防のためのセミナーや、育児中の親御さんを対象とした乳幼児健診、地域の介護施設との連携など、クリニックの専門性を活かした取り組みを通して、地域社会への貢献と同時に、クリニックの認知度向上を目指せます。

重要なのは、地域住民のニーズを的確に捉え、それに応える医療サービスを提供することです。患者さんとの信頼関係を築きながら、地域に根付いたクリニックを目指しましょう。

収入源の多角化で安定経営を実現！保険診療と自由診療のバランス

クリニック経営を安定させるためには、収入源の多角化も重要な戦略です。保険診療を中心としながら、自由診療メニューをバランスよく導入することで、収益の安定化を図ることができます。

例えば、美容皮膚科やAGA治療、禁煙外来など、患者さんのニーズが高い自由診療メニューを検討してみましょう。これらのメニューは、保険診療と比べて診療報酬単価が高く設定できるため、収益増加に貢献しやすい点が特徴です。

しかし、自由診療の導入には、患者さんへの丁寧な説明が不可欠です。保険診療との違いや費用、治療内容などをわかりやすく伝えることで、患者さんの理解と納得を得るように心がけましょう。具体的には、治療前に、治療内容や費用をまとめた資料を作成し、患者さんに渡したり、治療に関する疑問に思っている点を丁寧に聞き取り、解消したりするなどの工夫が考えられます。

また、地域住民の経済状況なども考慮し、高額な自由診療メニューだけでなく、比較的低価格で提供できる予防医療や健康増進サービスなども検討することで、幅広い患者層を獲得できる可能性があります。例えば、特定健診や予防接種などは、保険診療と組み合わせることで、患者さんの負担を軽減しながら、クリニックの収益向上につなげることができます。

保険診療と自由診療のバランスを適切に保ちながら、患者さんのニーズに合わせた医療サービスを提供することで、安定した経営基盤を構築できるでしょう。

最新の医療機器導入は計画的に！設備投資のリスクと費用対効果を見極める

最新の医療機器の導入は、患者さんにとって質の高い医療を提供できるだけでなく、クリニックの競争力強化にも繋がります。しかし、高額な投資となる場合が多いため、導入前に綿密な計画と費用対効果の検証が必要です。

まず、導入を検討する医療機器が、本当に患者さんのためになるのか、診療の質向上に繋がるのかを慎重に見極める必要があります。最新の機器だからといって、必ずしも全ての患者さんに最適な治療を提供できるとは限りません。

例えば、最新の画像診断装置を導入したとしても、その装置を必要としない患者さんに対してまで、高額な検査費用を負担させてしまう可能性もあります。

また、導入費用だけでなく、維持費やランニングコスト、スタッフのトレーニング費用なども考慮する必要があります。導入後の減価償却費や、機器の更新費用なども見込んでおくことが大切です。

さらに、導入した医療機器を活用して、新たな診療メニューを開発したり、既存の診療を効率化したりすることで、投資効果を最大限に引き出すための戦略も重要です。例えば、最新のレーザー治療機器を導入した場合、その機器を使った新しい美容治療メニューを開発することで、新たな患者層を獲得できる可能性があります。

医療機器の導入は、あくまでも手段の一つです。患者さんにとって最適な医療を提供するという視点を忘れずに、計画的に導入を進めるようにしましょう。

クリニックの未来を創造する

開業医として、地域医療に貢献したい、患者さんの力になりたいという思いを持って、クリニックを開業する先生も多いでしょう。しかし、医療の進歩や社会の変化は目まぐるしく、それに対応していくためには、現状維持に甘んじることなく、常に未来を見据え、進化し続けることが重要です。

過去の成功体験に固執してしまうことは危険です。医療技術や機器は進化し続け、患者のニーズも多様化しています。例えば、私が開業した当初は、まだ一般的ではなかったオンライン予約システムも、今では多くのクリニックで導入されています。時代の変化に対応できなければ、患者を逃し、経営を圧迫する可能性すらあります。

では、具体的にどのような点に注意して、クリニックを進化させていけば良いのでしょうか？ここでは、特に重要な３つの要素、すなわち「チームワーク」「情報発信」「経営戦略」に焦点を当て、具体的な方法を解説していきます。

チームワークが成功のカギ！働きがいのある職場環境づくり

「医は仁術」という言葉があるように、医療は医師の技術や知識だけで成り立つものではありません。患者さんに安心感を与え、質の高い医療を提供するためには、看護師、受付スタッフ、事務スタッフなど、全スタッフが連携し、それぞれの能力を最大限に発揮できるような、働きがいのある職場環境を作ることが不可欠です。

しかし、クリニック経営者の中には、「スタッフは指示された業務をこなせば良い」と考えている方もいるかもしれません。しかし、このような考え方は、スタッフのモチベーションを低下させ、離職率を高める原因になりかねません。

例えば、以前、私のクリニックでは、スタッフ間のコミュニケーション不足が原因で、業務に支障が出るという問題が発生しました。そこで、毎週1回、全員参加のミーティングを実施し、業務報告や意見交換を行うようにしたところ、コミュニケーションが円滑になり、チームワークが向上しました。その結果、スタッフの定着率が向上し、患者満足度も向上しました。

働きがいのある職場環境を作るためには、以下のような取り組みが考えられます。

これらの取り組みを通して、スタッフが「このクリニックで働いていて良かった」と思えるような職場環境を作ることで、クリニック全体のモチベーション向上、ひいては患者満足度の向上へと繋がるのです。

情報戦を制する者が生き残る！Web戦略と効果的な広報活動

現代社会において、新規患者の獲得にWeb戦略は欠かせません。特に、スマートフォンの普及により、多くの人が医療機関を探す際にインターネットを利用するようになっています。

例えば、私のクリニックでは、ホームページ開設当初は、専門用語が多く、患者さんにとってわかりにくい内容でした。そこで、患者さんの目線に立って、ホームページの内容やデザインを刷新し、専門用語にはわかりやすい解説を加えるなどの改善を行いました。

その結果、ホームページへのアクセス数が大幅に増加し、新規患者数も増加しました。この経験から、Web戦略は、クリニックの経営に大きく影響を与える可能性があると確信しています。

効果的なWeb戦略としては、以下のようなものが挙げられます。

• ホームページの充実: 診療時間やアクセス情報はもちろんのこと、医師やスタッフの紹介、診療方針、治療内容などを写真やイラストを交えながらわかりやすく掲載する。
• ブログやSNSの活用: 日々の診療の様子や健康に関する情報を発信することで、患者さんとの距離を縮める。
• SEO対策の実施: 検索エンジンで上位表示されるよう、ホームページの構成やキーワードを見直す。
• オンライン予約システムの導入: 24時間いつでも予約が可能になるため、患者さんの利便性が向上する。

Web戦略と並行して、地域に密着した広報活動も重要です。地域新聞やフリーペーパーなどに広告掲載したり、地域イベントに参加したりすることで、地域住民にクリニックの認知度を高め、親しみを持ってもらうことができます。

変化を恐れずに進化を！医療制度改革に対応した経営戦略

日本の医療制度は、頻繁に改正が行われており、クリニック経営にも大きな影響を与えています。診療報酬改定や新しい医療技術の登場など、クリニック経営に影響を与える可能性のある出来事を常に注視し、必要があれば、柔軟に対応していくことが重要です。

例えば、2020年度の診療報酬改定では、オンライン診療の評価が引き上げられました。この変化をいち早く察知し、オンライン診療を導入したクリニックは、患者数の増加に成功しています。

変化に対応するためには、常に最新の情報収集を心がけ、必要に応じて、外部の専門家の意見を聞くことも有効です。また、自院の強みと弱みを分析し、時代の変化に合わせた経営戦略を立てることが重要です。

医療制度改革への対応は、クリニックの存続、そして発展に不可欠な要素と言えるでしょう。