クリニックの損益分岐点とは?経営に役立つ知識を一から解説!

「患者さんに寄り添った医療を続けたい」 ― その想いは、クリニック経営が安定して初めて実現するものです。医療機器の更新やスタッフの待遇改善も、安定した経営基盤があってこそ。

では、安定したクリニック経営を実現し、患者さんに寄り添い続けるにはどうすれば良いのでしょうか?

その答えとなるのが「損益分岐点」の理解です。

この記事では、損益分岐点の意味から、具体的な計算方法、そして経営改善のための活用法まで、事例を交えながらわかりやすく解説していきます。

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目次

クリニックの損益分岐点を理解する

クリニック経営において、患者さんに寄り添った質の高い医療を提供することはもちろん大切ですが、医療を継続的に提供していくためには、安定した経営基盤を築くことが不可欠です。

クリニック経営を「愛」と「情熱」だけで語るのは簡単ですが、現実は厳しいものです。どれだけ患者さんのためを思っていても、クリニックが赤字続きでは、医療機器の更新やスタッフの待遇改善もままならず、最終的にはクリニックの存続すら危うくなってしまいます。

そこで重要となるのが「損益分岐点」の理解です。損益分岐点とは、売上と費用がちょうど釣り合うポイントを指し、クリニック経営の健全性を測る重要な指標となります。

この章では、損益分岐点の基本からその重要性、そして経営状況を判断する上で欠かせない「損益分岐点比率」について、具体的な事例を交えながら解説していきます。

損益分岐点の定義と計算式

損益分岐点とは、簡単に言えば「クリニックが赤字から黒字に転換する売上高」のことです。売上高が損益分岐点を上回れば黒字、下回れば赤字となります。黒字経営は、クリニックの成長、そして患者さんへのより良い医療提供のために欠かせません。

この損益分岐点を計算する式は、以下のようになります。

損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – 変動費率)

ここで、固定費と変動費、変動費率について説明します。

  • 固定費:売上高に関係なく、毎月一定額発生する費用です。家賃、医療機器のリース代、人件費などが挙げられます。
    • 例えば、毎月の家賃が50万円、スタッフの人件費が100万円だとすると、固定費は150万円になります。
  • 変動費:売上高に応じて変動する費用です。医薬品費、医療材料費、検査委託費などが該当します。
    • 例えば、患者数が増えれば、使用する医薬品や医療材料も増えるため、変動費は増加します。
  • 変動費率:売上高に占める変動費の割合です。変動費 ÷ 売上高 × 100で計算できます。
    • 例えば、売上高が300万円、変動費が100万円だった場合、変動費率は33.3%になります。

具体的な例を挙げてみましょう。Aクリニックの固定費が1,000万円、変動費率が60%だったとします。この場合、損益分岐点は以下のようになります。

損益分岐点 = 1,000万円 ÷ (1 – 0.6) = 2,500万円

つまり、Aクリニックは2,500万円の売上高を達成しなければ黒字化できないことを意味します。

クリニック経営における損益分岐点の重要性

損益分岐点を把握することは、クリニック経営において以下の様な点で重要です。

  1. 経営目標の設定: 損益分岐点を把握することで、目標とする利益を得るために必要な売上高を明確化できます。
    • 例えば、月々100万円の利益を目標とする場合、損益分岐点に100万円を加えた金額が目標売上高となります。
  2. 費用管理の意識向上: 損益分岐点分析を通して、固定費と変動費の現状を把握することができます。これにより、無駄なコストを洗い出し、経費削減の意識を高めることができます。
    • 例えば、人件費や消耗品費などの見直しを検討するきっかけになります。開業医にとって、自身のクリニックの財務状況を把握し、適切な経営判断を行うことは非常に重要です。損益分岐点分析は、そのための強力なツールとなります。
  3. 価格設定の参考: 新しい診療メニュー導入や自由診療の価格設定において、損益分岐点を考慮することで、採算が取れる適切な価格設定を行うことができます。
    • 例えば、新しい医療機器を導入する場合、そのリース代や維持費を考慮して、損益分岐点を達成できるだけの患者数を確保できる診療報酬を設定する必要があります。
  4. 経営の安定化: 損益分岐点を常に意識することで、収益目標を達成しやすくなるだけでなく、予想外の事態が発生した場合にも、適切な対策を講じることが可能になります。
    • 例えば、インフルエンザの流行など、突発的な患者数の増加や減少が起こった場合でも、あらかじめ損益分岐点を把握しておくことで、迅速に人員配置や在庫調整などの対応をとることができます。

損益分岐点比率でわかる経営状況の判断基準

損益分岐点比率は、売上高全体の中で損益分岐点が占める割合を示します。計算式は下記の通りです。

損益分岐点比率 = 損益分岐点 ÷ 売上高 × 100

この比率が低いほど、少ない売上高で黒字化を達成できる、つまり収益性が高いことを意味します。厚生労働省の調査によると、クリニックなど医療機関の損益分岐点比率は90%程度というデータが出ています。これは、医療機関の経営状況が厳しいことを示唆しており、多くの医療機関が、コストに見合う収益を確保できていない現状や人件費増加の負担に悩まされている可能性が考えられます。

例えば、売上高が2,000万円、損益分岐点が1,800万円のクリニックの損益分岐点比率は90%となります。これは、売上高の90%を固定費と変動費で賄っており、残りの10%が利益となることを示しています。一般的に、損益分岐点比率が高い場合は、固定費が大きすぎる、あるいは変動費率が高いなど、経営上の課題を抱えている可能性があります。

損益分岐点比率は、クリニック経営の健全性を示す重要な指標の一つです。定期的に計算し、自院の経営状況を把握することで、適切な経営判断を行うことが可能になります。

引用元: 厚生労働省 第24回医療経済実態調査

クリニックの損益分岐点を下げる戦略

損益分岐点を下げるということは、低い売上でも黒字化しやすくなる、つまり経営が安定化しやすくなるということです。損益分岐点を下げるためには、固定費と変動費を抑制することが重要となります。

固定費を見直して削減する

固定費とは、売上の増減に関わらず、毎月一定額発生する費用です。固定費を削減できれば、その分だけ損益分岐点を下げることができます。

固定費の中でも大きな割合を占めるのが「家賃」「人件費」「減価償却費」です。

家賃

家賃に関しては、賃貸契約の内容によっては交渉の余地がない場合もありますが、更新時期に合わせてより賃料の安い物件への移転を検討してみるのも良いでしょう。開業当初は、駅近や人気のエリアにクリニックを構えることに魅力を感じるかもしれません。

しかし、少し駅から離れた場所や、賃料の安いエリアでも、アクセスが悪くなければ患者さんに受け入れてもらえる可能性は十分にあります。

人件費

人件費は、クリニック経営において大きな割合を占める費用であり、削減は容易ではありませんが、スタッフの勤務時間の見直しや業務の効率化などに取り組むことで、人件費を抑えることができます。

減価償却費

減価償却費は、医療機器や設備の購入費用を、耐用年数に応じて費用計上したものです。一度購入した医療機器などは簡単には処分できないため、減価償却費をすぐに削減することは難しいですが、新規で医療機器を導入する際にはリース契約も視野に入れ、初期費用を抑えることを検討してみましょう。

高額な医療機器を導入する際には、最新機種に飛びつくのではなく、既存の機器で代用できないか、中古機器を検討するのも有効な手段です。

その他

その他にも、水道光熱費や通信費、広告宣伝費など、固定費として計上されている費用を見直し、削減できる項目がないかを確認してみましょう。例えば、電力会社やガス会社の契約プランを見直したり、使用量の少ない電話回線を解約したりするだけでも、固定費を削減できる可能性があります。

契約内容を定期的に見直すことは、思わぬコスト削減に繋がる可能性があります。

変動費を抑制する具体的な方法

変動費とは、売上の増減に応じて変動する費用のことです。変動費を抑制するためには、日々の業務におけるコスト意識が重要になります。

変動費の中でも大きな割合を占めるのが「医薬品費」「医療材料費」です。医薬品費や医療材料費を削減するためには、医薬品や医療材料の仕入れ値を見直したり、在庫管理を徹底したりするなどの方法があります。使用期限が近い医薬品や医療材料を優先的に使用するなど、在庫管理を徹底することで、廃棄ロスを減らすことも可能です。在庫管理システムを導入することで、使用期限切れによる廃棄を減らし、適正在庫を維持することができます。

その他にも、消耗品の使用量を抑えたり、外部に委託している業務を見直したりするなど、様々な方法で変動費を抑制することができます。例えば、医療事務の業務の一部を外部に委託することで、人件費の削減だけでなく、業務の効率化や精度の向上が見込めます。

診療単価と患者数の関係性を分析する

診療単価を上げれば、少ない患者数でも売上を確保することができますが、診療単価を高く設定しすぎると、患者が減少してしまう可能性もあります。損益分岐点を下げるためには、診療単価と患者数のバランスを考慮することが重要です。

診療単価を適正化する際には、保険診療と自由診療のバランスを検討する必要があります。保険診療は、診療報酬点数によって診療単価が決められているため、自由に設定することはできませんが、自由診療は、クリニック側で自由に診療単価を設定することができます。患者層や地域性などを考慮し、保険診療と自由診療のバランスを見直すことで、診療単価の適正化を図ることができます。

また、患者数を増やすためには、クリニックの認知度向上や患者満足度向上に取り組む必要があります。ホームページやSNSなどを活用した情報発信、患者からの口コミや評判を参考に、クリニックの改善点を洗い出し、より良い医療サービスの提供を目指しましょう。例えば、ホームページに院長やスタッフの紹介を掲載したり、ブログで病気や治療に関する情報を発信することで、患者さんの不安を解消し、クリニックへの理解を深めてもらうことができます。また、待ち時間の短縮や院内環境の改善など、患者さんの視点に立ったサービスを提供することで、満足度向上に繋げることができます。

損益分岐点分析を用いて経営改善する方法

損益分岐点分析は、クリニック経営において、現状を把握し改善すべきポイントを見つけ出すための強力なツールとなります。闇雲に努力するのではなく、データに基づいた戦略を立てることが、クリニックの成功へと繋がります。

目標とする利益設定と達成への道筋

損益分岐点分析を行い現状を把握したら、次は目標とする利益を設定します。目標とする利益は、クリニックの規模や経営状況、将来のビジョンなどを考慮して設定する必要があります。

目標利益を達成するための道筋としては、大きく分けて「売上増加」と「費用削減」の2つのアプローチがあります。

売上増加

  • 新規患者の獲得:
    • 地域住民への認知度向上のため、ホームページやポータルサイト、SNSなどを活用した情報発信は、もはや必須です。特に、ターゲットを絞った情報発信を行うことで、より効果的に患者獲得を目指せます。例えば、産婦人科であれば、妊婦さん向けのヨガ教室や育児サークルなどを開催し、地域住民との交流を図りながら、クリニックの認知度向上につなげることができます。
  • 既存患者の再来院促進:
    • 定期的な健康診断や予防接種の案内、健康に関するセミナー開催などを通じて、患者さんとの継続的な関係構築を目指します。患者さん一人ひとりの健康状態やニーズを把握し、 personalized な医療サービスを提供することで、患者満足度を高め、再来院に繋げることができます。
  • 自由診療メニューの導入:
    • 美容医療や健康診断など、保険診療外の自由診療メニューは、収益源の多角化だけでなく、患者さんのニーズを満たす上でも有効です。ただし、自由診療は、保険診療と異なり、患者さん自身の費用負担が大きくなるため、丁寧なカウンセリングとわかりやすい説明が求められます。

費用削減

  • 固定費の見直し:
    • 家賃、リース料、通信費などは、契約内容の見直しや交渉によって、削減できる可能性があります。例えば、電力会社やガス会社の見直し、使用量の少ない電話回線の解約、複合機などのリース契約の見直しなど、地道な努力を積み重ねることで、固定費を削減することができます。
  • 変動費の抑制:
    • 医薬品や医療材料の仕入れ先の見直しや共同購入、在庫管理の徹底などにより、変動費の削減を図ります。ジェネリック医薬品の積極的な使用も有効な手段です。また、医療材料についても、品質を落とすことなく、より安価な製品を検討することで、コスト削減につなげることができます。
  • 人件費の最適化:
    • 業務の効率化やタスクの標準化、分担の見直しなどを行い、人材配置の最適化を検討します。例えば、受付業務の一部を自動化する、電子カルテシステムを導入することで、業務効率化を図り、人件費の削減につなげることができます。

これらの施策を組み合わせることで、目標とする利益達成を目指します。重要なのは、現状を把握し、具体的な数値目標を設定した上で、優先順位をつけながら、計画的に施策を実行していくことです。

シミュレーションによる経営状況予測

損益分岐点分析を用いることで、様々な経営状況をシミュレーションできます。例えば、「人件費が増加した場合」「家賃が値上がりした場合」「診療報酬が減額された場合」「新規に医療機器を導入した場合」など、様々な状況を想定し、それぞれのケースにおける損益分岐点の変化を予測します。

具体的には、スプレッドシートや経営シミュレーションソフトなどを活用し、変動費率や固定費、売上高などの数値を入力することで、簡単にシミュレーションを行うことができます。

シミュレーションを行うことで、将来の経営状況を予測し、リスクを事前に把握することが可能となります。例えば、新規に医療機器を導入する場合、導入費用やランニングコストなどを考慮した上で、どの程度の売上増加が見込めれば投資を回収できるのかをシミュレーションすることができます。

このように、シミュレーションは経営状況の変化に柔軟に対応するための意思決定を支援する有効なツールとなります。

クリニック経営には損益分岐点の把握が重要

クリニック経営の安定化には「損益分岐点」の理解が不可欠です。損益分岐点とは、売上と費用が釣り合うポイントであり、これを上回る売上を確保することで黒字経営が可能になります。

損益分岐点を下げるためには、固定費(家賃、人件費など)の見直しや変動費(医薬品費、医療材料費など)の抑制が重要です。また、診療報酬制度の改定など、外部環境の変化にも注意が必要です。

損益分岐点分析を活用することで、目標利益達成に向けた具体的な戦略を立て、クリニック経営の安定化を図りましょう。

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この記事を書いた人

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