診療圏調査とは？クリニック開業で失敗しないための重要性と具体的手順

クリニック開業で最も大きな不安は「この場所で患者は来るのか」という点ではないでしょうか。成功の8割は立地で決まると言われる一方、感覚に頼った決断が失敗につながることも少なくありません。

その不安を解消し、経営の設計図となるのが「診療圏調査」です。本記事では推定患者数の算出から競合分析まで、開業を成功に導くためのポイントを解説します。

診療圏調査とは

クリニック開業を前に、「患者は本当に来るのか」「競合に勝てるのか」「経営は成り立つのか」と不安を抱く先生は少なくありません。その不安を客観的データで払拭し、確信を持って開業を進めるための軸となるが「診療圏調査」です。

ここでは、そもそも診療圏調査とは何か、目的などを詳しく見ていきましょう。

医療版「商圏分析」としての位置づけ

診療圏調査は、いわば「医療版の商圏分析」です。コンビニが出店する際に周辺の人口や競合店の状況を分析するのと同じように、クリニックがどの範囲から、どのような患者様に来ていただける可能性があるのかを分析します。

しかし、一般的な商圏分析と決定的に違うのは、その専門性と複雑さです。単にクリニックから半径〇kmといった同心円で考えるのではなく、患者様の受診動向に影響を与える医療ならではの要因を多角的に考慮する必要があります。

特に重要なのが「診療科目による特性」と「地理的・交通的要因」です。

診療科目による診療圏の違いについて考えておく必要があります。

例えば、かかりつけ医としての役割が強い内科と、プライバシーへの配慮や専門性を求めて遠方からも患者様が訪れる婦人科では、想定すべき患者様の来院範囲が全く異なります。

診療科目の例	診療圏の目安（郊外の場合）	患者様の受診動機・特性
内科・小児科	車で10分圏内	風邪や生活習慣病など日常的な疾患が中心。アクセスの良さが最優先される。
耳鼻咽喉科・精神科	半径2km～4km前後	季節性のアレルギーや専門的なカウンセリングなど、特定のニーズで来院。多少遠くても選択肢に入る。
婦人科・美容皮膚科	半径4km以上も想定	プライバシーを重視し、知人に会いにくい場所を選ぶ傾向。専門性を求め、より広域から来院する。

地図上では近くても、踏切や幹線道路、坂道や川は通院の妨げとなり、診療圏を分断します。さらに、スーパーや銀行など生活動線に沿っているかどうかも、来院しやすさを大きく左右する点は理解しておきましょう。

患者数予測と競合把握を目的とする調査

診療圏調査の具体的な目的は、大きく分けて「推定患者数の算出」と「競合クリニックの把握」の2つです。これらは、金融機関に提案する事業計画の策定と、開業後の差別化戦略の要となります。

まず、「推定患者数の算出」は、以下の計算式が一般的に用いられます。

この数値は融資審査で重要ですが、大きな落とし穴があります。この式は、エリア内の競合クリニックの集患力が「すべて同じ」と仮定している点です。

しかし、地域で絶大な信頼を得ているベテラン院長のクリニックと、これから開業する自院の集患力が同じはずがありません。この数値を鵜呑みにせず、後述する競合の「質」の分析で補正する必要があります。

また、オフィス街では夜間人口より、通勤・通学者を含む昼間人口を重視するなど、立地特性に合わせた分析が不可欠です。

次に、「競合クリニックの把握」は、単に数を数えるだけでなく、その「実力」を測ることが重要です。

こうした詳細な分析を行うことで、地域に不足している医療ニーズを把握でき、自院が果たすべき役割や提供すべき価値が見えてくるでしょう。

診療圏調査が重要な理由

ここでは、診療圏調査がなぜ重要なのかを詳しく見ていきましょう。

開業の成否を左右する立地選び

「クリニックの成功は立地で8割決まる」と言われますが、多くの先生が馴染みや人通りなど感覚で判断し、開業後に苦戦するケースは少なくありません。

診療圏調査はこうした思い込みを排除し、客観的データから診療コンセプトと地域ニーズが合致する「勝てる場所」を導き出すためには欠かせないのです。

患者数を安定的に確保するために

クリニック経営の根幹は継続的に来院する患者数であり、診療圏調査はそれを予測するために行います。推定患者数の計算式は事業計画の基礎ですが、競合の集患力を一律と仮定している点に大きな落とし穴があります。実際には、院長の経歴や地域での人脈、広告投資、口コミ評価などで集患力は大きく異なります。

これらを徹底的に分析することで、競合が多いエリアでも「未対応の医療ニーズ」という隙間を見つけ出し、自院の独自の強みを築くことができるのです。

金融機関への事業計画でも必須

開業には数千万円規模の資金が必要で、その大半は金融機関からの融資で補います。融資担当者が見るのは情熱ではなく、「投資が確実に回収できるか」という一点です。診療圏調査に基づかない事業計画は希望的観測にしか映りません。

例えば「人口が多いので1日50人」といった説明は根拠不足ですが、診療圏調査で人口構成や受療率、競合の特性を数値で示せば、明確な市場機会と戦略を提示できます。診療圏調査は、金融機関から信頼を得て開業のスタートラインに立つための必須の根拠なのです。

診療圏調査の実施方法

具体的な診療圏調査の実施方法をご紹介します。大きく分けて、「同心円状の距離」「車での移動距離」で調査するケースがあります。

同心円状の距離で調査するケース

診療圏を設定する最も一般的な方法が、開業予定地を中心に同心円を描き、その半径を診療圏とするやり方です。多くのクリニックでは半径1〜1.5km程度が目安とされます。徒歩や自転車で通える範囲であり、日常的に利用してもらいやすい距離だからです。

ただし診療科目によって適切な範囲は変わります。たとえば内科のように競合が多い科目では、より狭い範囲で患者の取り合いが起こるため、1km以内で考えるのが一般的です。一方で小児科や耳鼻科、専門性の高い診療科は、患者が多少遠くからでも通院する傾向があるため、広めに設定されることもあります。

このように、単純な「距離」だけでなく、診療科や地域特性を踏まえて柔軟に半径を決めることが重要です。

車での移動距離で調査するケース

診療圏を車での移動距離で設定する方法もあります。実際には、患者がどのクリニックに通うかは単純な距離だけでなく、車でのアクセスや生活動線に大きく左右されるためです。

たとえば「家から近いけれど踏切を越えるのが不便で通わない」「多少遠くても大型スーパーや職場の近くにあるクリニックを選ぶ」といった行動はよく見られます。また、幹線道路沿いに立地しているか、駐車場の有無なども来院範囲を決定づける要素になります。

そのため、診療圏を設定する際は「車で〇分以内」といった時間的な基準を取り入れ、地域特有の生活動線を考慮することが欠かせません。距離と時間の両面から来院範囲を検討することで、より現実に即した診療圏調査が可能となります。

診療圏調査の基本ポイント

ここでは、開業の成否を分ける4つの必須チェックポイントを具体的に解説します。

人口構成・世帯構成の分析

クリニック経営の根幹は、先生が提供したい医療と、その地域に住む人々のニーズが合致しているか、という一点に尽きます。例えば、ご自身の専門が小児アレルギーであるにもかかわらず、開業候補地が高齢者ばかりのエリアでは、どんなに優れた医療を提供しても患者様は集まりません。まずは、その土地の「人」を知ることから始めましょう。

e-Stat（政府統計の総合窓口）などで閲覧できる国勢調査のデータを活用するのがポイントです。最低でも以下の項目は、確認しましょう。

分析項目	確認すべき具体的な指標の例
年齢階級別人口	・小児科：0～9歳の「年少人口」の数と比率 ・内科（生活習慣病）：40～60代の人口 ・整形外科：65歳以上の「老年人口」の数と比率
世帯構成	・ファミリー層が多い地域（小児科・耳鼻科向き）か ・単身世帯が多い地域（皮膚科・心療内科向き）か
昼間人口と夜間人口	・オフィス街か住宅街かがわかる

一つの目安として、「半径1km圏内の夜間人口が3万人以上」あると、比較的安定した経営基軌道に乗りやすいといわれます。

競合クリニックの分布と診療科の偏り

次に、同じエリアで患者様を診ることになる競合クリニックのリサーチです。

調査フェーズ	具体的な調査項目と着眼点
①オンライン調査	・HP/SNS ・Googleマップ/口コミサイト
②現地調査	・外観・駐車場 ・待合室の雰囲気（可能なら）

このリサーチによって、「内科のクリニックは多いが、呼吸器専門医はおらず、睡眠時無呼吸症候群の治療（CPAP）まで手がけている施設はない」あるいは「皮膚科はどこも待ち時間が長く、Web予約システムを導入すれば利便性で勝てる」といった、具体的な戦略が見えてくるはずです。

アクセスや生活動線のチェック

データ上は有望に見えても、患者様が「通いにくい」と感じれば、その立地はいいとはいえないでしょう。特に日常的な疾患を扱うプライマリ・ケア領域では、「通いやすさ」が他のどんな要素よりも優先されることがあります。必ずご自身の足で確認しましょう。

再開発や将来の人口動態の把握

開業はゴールではなく、10年、20年と続く事業のスタートです。したがって、今現在の状況だけでなく、そのエリアが5年後、10年後にどう変化していくのか、未来を見据える視点が不可欠です。

自治体のウェブサイトで公開されている「都市計画」や、国立社会保障・人口問題研究所が公表する「将来推計人口」は必ず確認しましょう。

Medrockが提供する「Web診療圏調査」

診療圏調査では「何人の患者が見込めるか」「周辺にどれだけの人口がいるか」を確認しますが、実際の患者数は競合クリニックの集患力や自院のWeb集患力にも大きく影響を受けます。

そこで当社では、従来の診療圏調査に加えて、Googleマップや検索結果、口コミなどWeb上の情報を分析する「Web診療圏調査」を提供しています。これにより、単なる人口データでは見えにくい競合の強み・弱みや自院が集患で勝てる余地を可視化することが可能です。

開業準備の段階のみならず、開業後においてもこの分析を行うことで、「立地の選択」と「集患戦略」の両面からクリニック経営に活用できるでしょう。

弊社の調査では、以下の項目をリサーチします。

なんとこれらを、すべて無料で実施します。

クリニック開業は非常にローカルなビジネスであるため、1診療圏につき1クリニック限定でご支援しております。そのため、ご希望のエリアでの開業を検討されている方は、ぜひお早めにご相談ください。