医療DXが進まない理由とは? メリットや解決策も一挙に紹介!

「医療DX」– この言葉を耳にする機会が増えましたが、医療現場への導入は、なかなか進んでいないのが現状です。

この記事では、医療DXが進まない理由を具体的に解説するとともに、クリニック経営における医療DX導入のメリット、そして、これから医療DXを導入するクリニックに向けて、具体的なステップを紹介します。

医療DXとは？

そもそも医療DXとは何でしょうか？

厚生労働省では医療DXを以下のように定義しています。

医療DXとは、保健・医療・介護の各段階（疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など）において発生する情報やデータを、全体最適された基盤（クラウドなど）を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることです。

引用元: 厚生労働省 医療DXについて

つまり、医療DXとは、患者さんの診療や介護によって発生した情報をデジタル技術を用いて管理することで国民一人一人の健康増進を目指す取り組みを示す言葉です。

医療DXが進まない理由と現状

DXという言葉が世の中に浸透して久しいですが、皆さんのクリニックではどの程度進んでいますか？「他のクリニックはどんどん進めているのに、うちはなかなか進まない…」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか？

令和3年度の総務省の調査(デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究)という報告書によると、医療・福祉分野におけるDXの導入率は9.3％であり、全産業平均と比較して非常に低い傾向にあるというデータが出ています。

医療機関でのDX導入が遅れている理由として以下の理由が考えられます。

導入コストと予算の壁

医療DXを導入するには、電子カルテシステムや医療画像システムなどの導入費用や保守費用、システムを運用するためのスタッフの人件費など、多額の費用がかかります。

費用項目	内訳
初期費用	電子カルテシステム購入費、医療画像システム購入費、ネットワーク構築費用、導入支援費用など
運用費用	システム保守費用、システムアップデート費用、セキュリティ対策費用、人件費など

特に、開業したばかりのクリニックや小規模なクリニックでは、予算が限られていることが多く、高額な費用がかかる医療DXの導入を躊躇してしまうケースも少なくありません。

例えば、最新の電子カルテシステムを導入しようとすると、数百万円から数千万円規模の初期費用が必要になる場合もあります。さらに、毎月の保守費用やシステムアップデート費用、セキュリティ対策ソフトの費用なども考えると、クリニック経営にとっては大きな負担となります。

セキュリティ対策への不安

医療DXを進める上で、セキュリティ対策への不安はつきものです。

電子カルテシステムには、患者さんの氏名、住所、生年月日、保険証番号などの個人情報はもちろんのこと、病歴、治療内容、投薬履歴など、非常に多くの重要な情報が記録されています。そのため、万が一、サイバー攻撃などによってこれらの情報が漏洩してしまうと、患者さんだけでなく、クリニックにとっても大きな損害が生じる可能性があります。

医療DXを進めるには、患者さんの情報を守るためにファイアウォールやセキュリティソフトの導入、セキュリティに関するスタッフへの教育など、多岐にわたるセキュリティ対策を万全にすることが非常に重要でありますが、時間やコストがかかるため、多くの病院が積極的に取り組んでいるとは言えないのが現状です。

ITリテラシーの不足

「ITリテラシーの不足」は医療DXの進展を阻む大きな要因の一つです。医療従事者の中には、日常業務が忙しく新しい技術やシステムの習得に時間を割けない人が多く、ITに対する知識やスキルが不足しているケースが多く見られます。

また、医療現場では高度な専門知識が求められる一方で、ITの専門性を兼ね備えた人材は少なく、システム導入や運用に対する抵抗感が強まることもあります。

その結果、既存の業務フローを変えたくない、操作が難しい、トラブル対応が不安という意識が根強く残り、DX推進の足かせとなっています。

IT教育の充実や使いやすいシステム設計が、医療現場でのITリテラシー向上の鍵となるでしょう。さらに、DXコンサルタントのサポートを受けることで、現場に合った最適なシステム導入とスムーズな運用が可能となり、変革のスピードを加速させる一助となります。

投資対効果（ROI）が見えにくい

「ROI（投資対効果）が見えにくい」という懸念は、医療DXの導入を躊躇させる大きな要因の一つです。医療機関では、DX導入の初期コストや運用費用が重くのしかかり、その投資が実際にどれだけの収益改善や効率化をもたらすのかが明確に見えにくいことがあります。

また、DXの効果が現れるまでに時間がかかることも多く、短期的な成果を重視する経営層にとっては、そのメリットを判断しづらいと感じることが多いです。

しかし、実際には医療DXによる効果は十分に期待できます。例えば、電子カルテの導入により診療時間の短縮が図られ、患者一人当たりの診療時間を削減することが可能です。これにより、診療の効率化が進み、一日の受け入れ患者数が増加し、収益が向上します。

適切な導入と運用を行えば、DXは確実に投資対効果を生み出し、医療機関の競争力を高める強力な武器となるのです。

クリニック経営における医療DX導入のメリット

時間的および金銭的なコストのためDX化に消極的な医療機関も多いですが、積極的に導入を進めることで、クリニック経営に大きなメリットがもたらされます。

ここでは業務効率化、患者満足度の向上、診療の質向上、経営の可視化といったメリットに紹介いたします。

業務効率化による人材不足の解消

クリニック経営において、人材不足は深刻な問題です。特に、看護師や医療事務スタッフなど、人材確保が難しい職種は多く、慢性的な人手不足に悩まされているクリニックも少なくないでしょう。

例えば、受付業務を例に考えてみましょう。従来の電話や窓口での予約受付は、患者さん一人ひとりに対応する必要があり、時間と手間がかかっていました。しかし、オンライン予約システムを導入することで、患者さん自身が24時間いつでも予約を取ることが可能となり、受付業務を効率化できます。

さらに、電子カルテシステムを導入すれば、紙カルテの保管スペースが不要になるだけでなく、過去の診療記録を簡単に検索できるようになるため、診療時間の短縮にも繋がります。

患者満足度の向上とクリニックの評判UP

患者満足度の向上は、クリニックの経営において非常に重要です。患者さんの満足度が高ければ、リピーターの増加に繋がり、クリニックの評判向上にも繋がります。

医療DXは、患者満足度向上にも大きく貢献します。オンライン診療システムを導入すれば、患者さんは時間や場所を問わずに診療を受けられるようになり、利便性が大幅に向上します。

例えば、仕事が忙しくてなかなか通院できない患者さんや、小さなお子さんがいてクリニックに行くのが大変な患者さんにとって、オンライン診療は非常に便利なシステムです。

また、待ち時間表示システムやモバイル決済サービスなど、患者サービスの向上につながるシステムを導入することで、患者さんの満足度を高めることができます。

診療の質向上と医療安全対策の強化

医療DXは、診療の質向上にも貢献します。従来であればバラバラに管理されていた情報をシステムを用いて一元的に管理することで、患者さんの診療情報が多職種で共有され、よりよい医療を提供することができます。

また、多職種で情報を共有することで情報の行き違いがなくなり、インシデントや医療事故などを減らすこともできるため医療安全対策にも役立つと考えられています。

経営の可視化によるデータ活用

医療DXを導入することで、診療データや経営データを収集・分析し、クリニック経営の可視化を進めることができます。これらのデータ分析結果に基づいて、経営判断の精度を高め、経営改善につなげることが可能になります。

例えば、経営ダッシュボードを導入すれば、売上や患者数、診療報酬請求状況などを一目で確認できるようになります。また、診療データ分析を行うことで、患者数が多い曜日や時間帯、よく処方されている薬などを分析し、クリニックの経営戦略に役立てることができます。

医療を取り巻く環境が大きく変化する中で、医療DXへの取り組みは避けて通れない課題です。積極的に導入を進めることで、患者さんにとってより良い医療を提供できるだけでなく、クリニック経営をより安定させ、発展させていくことができるでしょう。

クリニックに最適な医療DX導入のススメ

医療DXと聞くと、最新のシステムや設備を導入して、業務を効率化するというイメージを持つかもしれません。確かに、それは医療DXの大きな側面の一つですが、それだけではありません。

医療DXの本質は、デジタル技術を活用して、患者さんにとってより質の高い医療サービスを提供し、職員にとってより働きやすい環境を構築することにあります。これから、クリニック経営に医療DXを導入するメリットや、具体的な進め方について解説していきます。

目的・目標を明確化し、優先順位をつける

医療DX導入を成功させるためには、まず「なぜ医療DXを導入するのか？」という目的を明確にすることが重要です。目的が曖昧なまま導入を進めてしまうと、本当に必要なシステムが何なのか分からなくなってしまい、結果としてコストばかりがかさんでしまう可能性があるため、クリニックの現状と目指す未来を考慮して、具体的な目的を定めましょう。

目的が決まったら、次に、具体的な目標を設定します。この際、SMARTな目標設定を意識することが重要です。SMARTとは、Specific（具体的）、Measurable（測定可能）、Achievable（達成可能）、Relevant（関連性）、Time-bound（期限）の頭文字を取ったもので、これらの要素を満たした目標設定をすることで、より目標達成に近づきやすくなります。

例えば、「3ヶ月以内に待ち時間を平均15分短縮する」「1年以内に電子カルテの導入を完了する」「半年以内にオンライン診療を開始し、月間10件の診療を目指す」といった具体的な目標を設定します。

そして、設定した目標を達成するために、どのような医療DXツールを導入する必要があるのか、優先順位をつけてリストアップしていきましょう。

補助金制度の活用とコスト削減

医療DXツールの導入には、どうしてもコストがかかってしまいます。しかし、国や自治体では、医療DX導入を支援するための補助金制度が用意されています。補助金制度を積極的に活用することで、導入コストを抑えることが可能です。

代表的な補助金制度としては、経済産業省の中小企業庁による「IT導入補助金」があります。この制度は、中小企業・小規模事業者等がITツールを導入する費用の一部を補助する制度であり、電子カルテやレセプトコンピューター(レセコン)の導入に関して申請することができます。補助金制度の利用には、申請手続きや要件を満たす必要があり、事前に情報収集をしておくことが大切です。

また、補助金制度の活用以外にもコスト削減の方法があります。例えば、複数のベンダーから見積もりを取って比較検討したり、クラウド型のシステムを導入することで、初期費用を抑えたりすることができます。

スタッフへの周知徹底と意識改革

医療DXを成功させるためには、医師や看護師、事務スタッフなど、クリニックで働くすべてのスタッフの理解と協力が不可欠です。新しいシステムやツールを導入しても、スタッフがその使い方を理解していなかったり、抵抗を感じていたりすると、十分に活用することができません。

導入前に、スタッフに対して、医療DX導入の目的やメリット、新しいシステムの使い方などを丁寧に説明し、理解と協力を得られるよう努めましょう。

また、医療DX導入は、単にシステムを導入するだけでなく、業務フローの見直しや、スタッフの役割分担の変更などが必要になる場合があります。スタッフの意見を聞きながら、より良い形で業務を進められるように、積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。

セキュリティ対策の重要性

医療DXを導入する際には、患者さんの個人情報を取り扱うことになるため、セキュリティ対策は非常に重要です。万が一、情報漏洩などのセキュリティ事故が発生してしまうと、患者さんの信頼を失ってしまうだけでなく、クリニックの経営にも大きな影響を与えかねません。

セキュリティ対策としては、まず、アクセス制御やウイルス対策ソフトの導入など、基本的なセキュリティ対策を徹底することが重要です。

さらに、電子カルテシステムなどの重要なシステムには、より強固なセキュリティ対策を施す必要があります。例えば、データの暗号化や、アクセスログの記録、定期的なセキュリティ診断の実施などが挙げられます。

セキュリティ対策は、患者さんのプライバシーを守るだけでなく、クリニックの信頼性を維持するためにも不可欠です。

段階的な導入と成功体験の積み重ね

医療DXツールは、電子カルテシステム、オンライン診療システム、予約システムなど、多岐に渡ります。これらのシステムを一度にすべて導入しようとすると、コストも時間もかかってしまい、スタッフにも大きな負担がかかってしまいます。

そのため、まずは、クリニックの課題やニーズに合わせて、導入しやすいシステムから段階的に導入していくことをおすすめします。例えば、比較的導入コストが低く、スタッフの負担も少ない予約システムから導入し、成功体験を積み重ねながら、徐々に他のシステムの導入を進めていくという方法が考えられます。

また、段階的に導入することで、それぞれのシステムの運用状況を見ながら、必要に応じてシステムの改修や追加を検討することができます。

医療DXが進まないなら、プロの手を活用しよう！

これだけ重要性が叫ばれている医療DXですが、なかなか進んでいないのが現状です。

「導入コストが高い」「医療情報に対するセキュリティ対策」「ITリテラシーの不足」「投資対効果（ROI）が見えにくい」など医療現場のDX化が進まない理由は多岐にわたります。

導入には一定のハードルがあるものの、医療DXにはそれを上回るメリットがあります。まずは手軽に取り組めるところから始めてみてください。

リテラシーやリソースの関係で、自クリニックのみで進めていくことが難しい場合は、医療DXのプロの手を借りてみるのもいいでしょう。

Dr.開業ナビでは、他にも医療DXに関する記事を提供しております。詳しくは以下の記事をご覧ください。