薬機法は、医薬品や化粧品などの品質・有効性・安全性を確保するための法律です。2014年に薬事法から名称が変わりました。
広告担当者にとって重要なのは、この法律が「何を売れるか」だけでなく「どう説明できるか」まで定めている点です。商品自体に問題がなくても、広告表現が規制に触れれば違反になります。
この記事では、薬機法の全体像、規制対象、広告に関わる条文、他の法令との関係を整理します。個別の表現判断に入る前の土台として使ってください。

薬機法とは
正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。長いため、一般に薬機法と略されます。
目的は、医薬品や医療機器などの品質と安全性を確保し、保健衛生上の危害を防ぐことです。この目的から、効果を誇張して消費者の判断を誤らせる広告が規制されます。
薬事法から薬機法へ
2014年11月25日、薬事法が改正され、名称が薬機法に変わりました。「薬事法」で検索する人が今も多いのは、この改称が浸透しきっていないためです。
現在は薬機法が正式名称です。 実務上は同じ法律を指すため、社内文書やガイドラインの表記は薬機法に統一しておくと混乱を避けられます。
改正の主な内容は、医療機器の規制体系の見直しと、再生医療等製品というカテゴリの新設でした。広告規制の基本的な考え方は、薬事法の時代から大きく変わっていません。
誰が規制の対象になるか
製造販売業者に限りません。 広告を出す事業者、販売する小売業者、広告を制作する代理店も対象になりえます。
「自社は製造していないから関係ない」という理解は誤りです。商品を紹介して販売につなげる立場であれば、広告表現の責任を負う可能性があります。
薬機法が規制する5つのカテゴリ
規制対象は5つに分かれます。どのカテゴリに属するかで、書ける内容が変わります。
| カテゴリ | 内容 | 効能効果の表示 |
|---|---|---|
| 医薬品 | 病気の治療・予防を目的とする | 承認された効能効果を表示できる |
| 医薬部外品 | 予防や衛生を目的とし、作用が緩やか | 承認された効能効果を表示できる |
| 化粧品 | 清潔にする、美化する、健やかに保つ | 56項目の範囲に限られる |
| 医療機器 | 診断・治療・予防に使う機械器具 | 承認・認証された範囲で表示できる |
| 再生医療等製品 | 細胞加工製品、遺伝子治療用製品 | 承認された範囲で表示できる |
健康食品はこの5つに含まれません。食品として扱われるため、効能効果を示すこと自体ができないという点が、実務上の重要な分岐になります。
化粧品と医薬部外品の違い
同じ見た目の商品でも、区分が違えば書ける内容が変わります。
- 化粧品:56項目の効能効果の範囲内で表示する。「肌荒れを防ぐ」は可、「肌荒れを治す」は不可
- 医薬部外品(薬用化粧品):承認を受けた効能効果を表示できる。化粧品では書けない表現が使える場合がある
自社商品がどちらかを確認せずに他社の表現を真似ると、違反につながります。
広告規制の3つの柱
薬機法の広告規制は、主に3つの条文で構成されています。
1. 虚偽・誇大広告の禁止(第66条)
すべての人が対象です。事業者に限らず、何人も虚偽または誇大な広告をしてはならないと定められています。
対象となるのは、名称、製造方法、効能効果、性能に関する表示です。医薬品だけでなく、化粧品や医療機器も含まれます。「効果を誇張しない」という原則が、実務で最も頻繁に問題になる部分です。
2. 未承認医薬品等の広告禁止(第68条)
承認を受けていない医薬品・医療機器について、効能効果を広告することを禁じています。
健康食品の広告が問題になるのは、多くがこの条文に関わるためです。 食品に医薬品的な効能効果を示せば、「未承認の医薬品を広告した」と評価されます。
3. 特定疾病用医薬品の広告制限(第67条)
がんなど特定の疾病に使う医薬品について、一般人向けの広告が制限されています。医療用医薬品の一般消費者向け広告が見られないのは、この規定が関わっています。
具体的な運用や解釈は、厚生労働省が公表している通知や基準を確認してください。個別の事案は関与の度合いによって判断が分かれます。
「広告」に該当する3つの要件
薬機法上の広告と判断されるのは、次の3つをすべて満たす場合とされています。
- 顧客を誘引する意図が明確であること
- 特定の商品名が明らかであること
- 一般人が認知できる状態であること
この定義は広く、次のものが該当しえます。
- 自社サイトの商品ページ、LP
- SNSの投稿(企業アカウント、依頼したインフルエンサー)
- メールマガジン、DM
- カタログ、チラシ、パッケージ
- 展示会の説明資料
- アフィリエイトサイトの記事
「広告枠を買っていないから広告ではない」という理解は通りません。 商品名を出して購入を促す表現であれば、媒体を問わず対象になります。
違反したときに何が起きるか
段階があります。すべてが直ちに刑事罰になるわけではありません。
行政指導
まず、都道府県の薬務主管課などから表示の是正を求める指導が入ることが一般的です。この段階で修正すれば、次の段階に進まないケースが多くあります。
措置命令・課徴金納付命令
指導に従わない場合や、違反の程度が重い場合は、措置命令の対象になります。虚偽・誇大広告については課徴金制度も設けられています。
課徴金の算定方法や対象期間の考え方は制度で定められています。具体的な要件は厚生労働省の公表資料で確認してください。 自社のケースに当てはまるかは個別の判断が必要です。
罰則
悪質な事案では刑事罰の対象になります。ただし実務上、多くの事案は行政指導の段階で処理されます。
事業への影響
処分の内容より影響が大きいのは、公表と広告停止です。
- 措置命令は事業者名とともに公表される
- 媒体の審査に落ち、広告出稿が止まる
- ECモールから商品ページが削除される
- 取引先から取引条件の見直しを求められる
広告が止まった期間の売上機会は戻りません。 事前のチェックにかかるコストと比べて、判断してください。違反の具体的な事例と対策は薬機法違反のリスクと正しい対策法で解説しています。
薬機法と他の法令の関係
広告を作るとき、薬機法だけを見ていては足りません。同じ表現が複数の法令に関わります。
| 法令 | 主な規制内容 | 関わる場面 |
|---|---|---|
| 薬機法 | 効能効果の表示、未承認品の広告 | 化粧品・健康食品・医療機器の広告全般 |
| 景品表示法 | 優良誤認、有利誤認、ステマ | No.1表示、二重価格、インフルエンサー施策 |
| 健康増進法 | 食品の誇大表示 | 健康食品の効果表示 |
| 医療広告ガイドライン | 医療機関の広告 | 美容医療、クリニックの集患 |
ひとつの広告が複数の法令に同時に触れることがあります。 「シミが消える(薬機法)」「業界No.1(景品表示法)」「体験談(ステマ規制)」が同じLPに載っていれば、3つの観点で問題になります。
2023年10月からのステマ規制についてはステマ規制とは?を参照してください。

商品カテゴリ別の実務
自社の商材によって、注意すべき点が変わります。
化粧品
56項目の効能効果の範囲を確認してください。「防ぐ」は書けても「治す」「消す」は書けません。医薬部外品との区分を明確にしてから表現を決めます。
実務はコスメ広告のNG表現とは?、SEOとの両立は化粧品のSEO対策にまとめています。
健康食品・サプリメント
薬機法上のカテゴリに含まれないため、効能効果を示すこと自体ができません。トクホ・機能性表示食品・栄養機能食品は例外的に、許可や届出の範囲で表示できます。
具体的なNG例はサプリ広告の薬機法NG表現一覧を参照してください。機能性表示食品の届出範囲については機能性表示食品の広告表現とは?で解説しています。
医療機器
クラス分類によって規制の強さが変わります。家庭用の管理医療機器でも、承認・認証された使用目的を超える表現は使えません。
美容医療の広告を扱う場合は、医療広告ガイドラインの限定解除とは?もあわせて確認してください。
チェック体制の作り方
判断を担当者の記憶に頼ると、精度が安定しません。手順として固定してください。
- 商品の区分を確定する — 化粧品/医薬部外品/医療機器/食品のどれか
- 書ける範囲を文書化する — 承認内容や届出内容を、社内で参照できる形にする
- 原稿を第三者がチェックする — 制作者以外の目を入れる
- 画像・図表・体験談も対象に含める — 文章だけでは足りない
- 判断が分かれるものを外部に回す — 社内で結論が出ない表現は専門家へ
具体的なNGワードは薬機法のNGワード一覧、チェックツールの比較は薬機法チェックツールおすすめ11選、外部委託の検討は広告審査代行とは?にまとめています。
よくある質問
薬事法と薬機法は違う法律ですか
同じ法律です。2014年11月に薬事法から薬機法へ名称が変わりました。現在の正式名称は薬機法です。
健康食品は薬機法の対象ですか
健康食品そのものは薬機法の規制カテゴリに含まれません。ただし医薬品的な効能効果を表示すると、未承認医薬品の広告として薬機法違反になります。実務上は薬機法を意識する必要があります。
販売店やアフィリエイターも対象になりますか
なりえます。虚偽・誇大広告の禁止は「何人も」が対象です。製造販売業者でなくても、広告表現の責任を問われる可能性があります。
個人のSNS投稿も規制されますか
事業者が依頼・関与していれば対象になります。消費者が自発的に投稿した感想は、原則として対象外です。
社内チェックだけで十分ですか
商品数と広告量によります。判断が分かれる表現が定期的に出るなら、外部の専門家によるレビューを組み合わせてください。
まとめ
薬機法の全体像を整理します。
- 正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。2014年に薬事法から改称
- 規制対象は医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の5カテゴリ
- 健康食品は対象外だが、効能効果を書けば未承認医薬品の広告として違反になる
- 広告規制の柱は虚偽・誇大広告の禁止と未承認品の広告禁止
- 「広告」の定義は広く、SNS投稿やアフィリエイト記事も含まれる
- 景品表示法・健康増進法・医療広告ガイドラインと同時に確認する必要がある
まず自社商品がどのカテゴリに属するかを確定してください。区分が決まれば、書ける範囲が絞り込めます。そのうえで既存の広告原稿を点検すると、優先して直すべき箇所が見えます。


